なぜ看護師は副腎疲労になるのか
看護師さんの多くが、自分は元気だと思っていることでしょう。
このHPに辿り着いたあなたは、自分だけがスタッフの中でストレス耐性が低いと思っているかもしれません。
同僚はすごく元気で活発なのに、自分は仕事だけで疲れてしまう。
自分は仕事の要領が悪い気がしている。
苦手な先輩がいて勤務が重なると憂鬱。
周りを気にしてばかりいる。
安心してください。
本文を最後まで読めば、自分だけが疲労の沼にハマっているわけではないことが理解できるでしょう。
目次
1・副腎疲労とは
「副腎疲労」これは正確に言うと「HPA軸の変調」のことを言います。
HPA軸とは視床下部⇨脳下垂体⇨副腎皮質軸 (hypothamic-pituitry-adrenal axis: HPA軸)の略語です。
脳の疲労によって副腎に適切な命令が下されないことで、最終的に副腎皮質から分泌されるホルモンに障害が起こることを指します。
副腎皮質ホルモンの中でも、ストレスフルな現代社会を生きるうえで大事なホルモンが、「コルチゾール」です。
このコルチゾールが分泌され過ぎたり、分泌されにくくなったり、日内変動に乱れが生じる状態を、「副腎疲労」と呼んでいます。
コルチゾールは、血圧や血糖値を維持して、体内の炎症にも抗う、現代人のストレス耐性に非常に重要なホルモンです。
コルチゾールの分泌は、朝の8時頃に最高になり、夕方にかけてどんどん出なくなり、夜はほとんど出なくなるのが正常な日内変動です。

2・副腎疲労を疑う症状
・とにかく疲れる、疲れが取れない。
・やる気が起きない。
・朝起きるのが辛い。
・体が重い、だるい。
・めまいがする。
・記憶力・集中力が低下した。(本や説明書が読めない。)
・頭が働かない。靄がかかった感じがする。
・うつ状態。
・楽しみや喜びが少ない。
・楽しいことをしていても疲れる。
・動悸がある。
・眠れない。
・パニックを起こしやすく、緊張しやすい。
・ストレスに対処できない。
・ストレスがあると風邪を引いたり寝込んだりする。
・風邪を引きやすく、治りが悪い。感染症に罹りやすい。
・アレルギーがある。炎症を起こしやすい。
・甘いものが好き。
・甘いものと塩辛いものを交互に食べ出すと止まらない。
・月経前症候群(PMS)がある。
副腎疲労初期には
・ゆっくりできない。(リラックスが苦手)
・聞かれもしないのに自分の健康を強調する。
・毎日充実している。
・早口。
・早食い。
・体をあちこちにぶつける。(注意散漫。)
・カフェインや砂糖の摂取量が増え出す。
・疲れや怪我があっても高強度のスポーツはやめられない。
などなど。
一つでも当てはまれば副腎疲労の可能性があります。
3・看護師が副腎疲労に陥りやすい理由
①夜勤(不規則なシフト勤務)
コルチゾールは、夜に出ないことが大事です。
理由は、HPA軸を休ませるということと、病気にならないためです。
コルチゾールが分泌されると、自律神経のうち、「交感神経」が活性化されます。
夜に寝ないで活動すると、日中から続くコルチゾールの分泌によって、交感神経優位が継続してしまいますので、副交感神経とのバランスが取れなくなり、自律神経が乱れます。
長期的な交感神経優位は、体内で活性酸素を増加させ炎症を促進し、癌や糖尿病、脳梗塞、胃潰瘍、十二指腸潰瘍、リウマチなどの原因となります。
また、慢性的な炎症がコルチゾールの分泌を促すことで、副腎疲労はさらに悪化します。
夜勤に従事していると、一日中コルチゾールが分泌されてしまうことになるのです。そしてやがて分泌ができなくなっていきます。(副腎疲労の進行)
②職業柄低血糖を起こしやすい
通常私たちは、「低血糖」にならないように、肝臓に糖(グルコース)を貯蓄しておいたり、色々なホルモンで対策をしています。
ところが副腎疲労になると、その対策がことごとく使えなくなるのですが、実は看護師の仕事環境がこの点でも悪化の要因になっています。
低血糖にならないためには、三食規則的に食べるということが重要です。
私たちは絶食時の低血糖に対してまずは、肝臓のグリコーゲンをグルコースに変換して血糖値を維持します。
肝臓のグリコーゲンは大体食後3〜4時間で利用が開始され、個人差はありますが、健康な状態では三食規則的に食べていて半日から1日で消費されます。

ところが強いストレスに晒されているヒトの場合は、食事での血糖値の維持が短時間しか保たないため、肝臓のグリコーゲン貯蔵量も不十分となります。
この肝臓のグリコーゲンは、三食の食事でへそくりされているものです。
朝ご飯を食べない場合などでは貯蔵量自体が乏しくなりますし、精神的緊張が強い状態や、肉体的にハードな仕事であれば重要が供給を上回ることもあるので、そのような場合は枯渇が早まります。
つまり三食食べていても、ストレスが強い人の場合や、食事と食事の間が長すぎる場合などには低血糖が生じやすくなるということです。
看護師は業務優先でお昼の休憩が決まるので食事時間は不規則ですし、お腹の空き具合で食事をすることは出来ませんね。それどころか患者様の急変対応で食べ損ねることもあります。
規則正しく食事を摂る、お腹がすいたからご飯を食べる、ということすらままならないのが看護師という職業ですから、日常的に低血糖を起こしやすく、副腎疲労が悪化しやすいのです。
腎疲労状態になりますと、それには必ず低血糖状態がつきものです。
どうしてかといいますと、副腎疲労では免疫力が低下するからです。特に腸管免疫が低下することによって、悪性菌が増殖しやすく、腸の粘膜上皮に慢性的な炎症が生じます。
この炎症を「リーキーガットシンドローム;腸漏れ症候群」と呼びます。
<リーキーガットシンドロームとは>
小腸の粘膜上皮細胞の密着接合(タイトジャンクション)が破られ、異物を通しやすく栄養は吸収しにくい状態になること。リーキーガットシンドロームは様々な慢性疾患の原因になっていると考えられている。

腸管免疫が低下した際に増殖する悪性菌の中でも、「カンジダ菌」が最も厄介で、私たちが食べる「糖」と「鉄」を餌にどんどん増えていきます。
私たちの方は「糖」を奪われるので低血糖になり、「鉄」を奪われるので細胞が酸欠になりエネルギー産生効率も低下します。
実はストレスによって副腎疲労をきたすのと、腸内環境が悪化していくのはほぼ同時進行で、むしろ腸内環境の悪化が副腎疲労を進行させる要因になっていきます。
腸内の悪性菌が増える⇨低血糖になる⇨甘いもの摂取量が増える⇨これを餌に益々悪性菌が増える⇨益々低血糖になる⇨甘いものが止まらない⇨腸内環境が悪化・・・の悪循環に入っていくのです。
中でもカンジダ菌は腸粘膜を貫く様に根を張るため、リーキーガット(腸漏れ)を起こしやすくなります。
この状態では本来体内に取り込まれることのない不純物や毒素が入りやすい状態になります。
腸粘膜を通過したものは全て門脈を通って一旦肝臓に運ばれるため、肝臓がこれらの解毒処理の負担を受けることになるために、グリコーゲンの貯蔵を含めた本来の仕事ができなくなっていきます。
この状態が長期化すると、副腎疲労はますます悪化していきます。
肝臓の蓄えを使い果たしたら、次に打つ手は「糖新生」です。
糖新生とは筋肉を分解してグルコースに変えるシステムで、主に肝臓で行われます。

糖新生の材料は筋タンパクを分解して得られる糖原性アミノ酸なので、「糖新生はすればするほど筋肉が減る」と言うことになります。
筋肉は「グリコーゲン」の最大の貯蔵庫です。筋肉内のグリコーゲンの貯蔵量は約300gで、通常筋肉のエネルギーとして消費されます。筋肉量が少ない人ほど疲れやすいのはこのためです。
糖新生という仕組みで筋肉やグリコーゲンをグルコースに変えて血糖値を維持していては、グリコーゲンの貯蔵量だけでなく、貯蔵庫そのもの(筋肉)がどんどん減っていきます。
食事からのグルコースを収納する『貯蔵庫』が少なくなるということは、摂取した糖の収納先が足りないということになります。
収納しきれないグルコースがいつまでも血中にある状況になるということですから、高血糖の原因になります。
高血糖とその後の低血糖は必ずセットですので、糖新生で筋肉を削っていると、結果的に低血糖を生じるようになるのです。
③ストレス
実はこれが現代人の低血糖の最も強力な原因かもしれません。このストレスとは、肉体面も精神面もどちらのストレスも該当しますが、精神的なストレスの方が強い影響があります。
副腎疲労を多く治療している医師も、「どんな優れた治療も、離婚と転職には叶わない。」と言うほどです。
看護師は人間関係や仕事上のプレッシャーなど、精神面でのストレスが強い上、食事や睡眠が不規則になりやすく、深夜に活動するという人体にとって相当のストレスを月に何度もこなしています。
もし今感じている心身の不調が深刻なものであるなら、働き方を検討することが一番重要と言えます。
4・看護師が自らの疲れに気がつけない原因『アドレナリン』
「低血糖」と言われてもピンとこない人もいると思います。それも無理はありません。
実は低血糖の状態に対して自覚がない人の方が多いのです。
おそらく看護師はこのタイプが多いのではないかと思います。
私達は低血糖になって、副腎疲労でうまくコルチゾールを使えないとしても、「アドレナリン」を分泌して、血糖値を維持しているため、アドレナリンを出しまくっている人ほど空腹を感じにくく、低血糖の自覚がありません。
コルチゾールがアドレナリンに選手交代すると、アドレナリンのメリットだけでなくデメリットも受けることになります。
アドレナリンは適切に分泌されていれば、集中力や打たれ強さ、持続力や閃きなどを発揮させる、現代社会を生きる私たちにとって重要なホルモンです。
アドレナリンは本来、短期的なストレスに対応するホルモンですので、のべつ幕無し頼っていると、もう一方の顔が見えてくるようになります。
この影響で私たちは、頭痛や肩こりがひどくなったり、かえって血糖値の乱高下を起こしやすくなり、イライラしやすく、不安や緊張を感じやすくなります。

アドレナリンを出すために、カフェインやチョコレートの依存になったり、体が辛くても走るのがやめられなくなったり、中には買い物やギャンブルなどの外的刺激が病みつきになったりもする人も出てくるのです。
毎日コーヒーを飲む、特に朝にコーヒーがないと体が動かないという人は要注意です。
カフェインは「秒」で脳から脊髄を通って副腎髄質へ電気刺激を伝え、アドレナリンを分泌することができるので、朝起きてすぐや気分転換にコーヒーが欠かせない方は、「とりあえずカフェインを入れて体を動かそう」という、アドレナリン依存の状態になっている可能性があります。
アドレナリンに長く依存していると、副腎はさらに疲労し、低血糖は慢性化します。
情緒はさらに不安定になり、食の抑制が効きにくく、免疫力も低下して、様々な慢性炎症が起きやすくなります。
ひたすら看護師が慢性的な疲労状態になっていく過程を書いてきました。対策まで網羅するとなると異様に長くなるので、今回はここで終わりにします。
看護師の疲労は、ちょっと休めば良くなる疲労ではありません。副腎疲労に対するケアが必要です。